音盤随想<Sim・ライヴ・日本の音楽シーン>

omay_yad2007-02-10

Simは大島、大谷、植村の3者による斬新なリズム解釈を持ったバンドである。そこに歌手であり女優であり画家でもある佳村の声や歌が絡む。先日渋谷で彼等のライヴがあった。ファンクの匂いがする大島のギター、大谷の電子音、両者が扱うラップトップの音源には厭世観を匂わせる軽薄さは皆無で、むしろ鍵盤楽器と見做すことできる。そして何よりも植村の超絶ドラミングが音楽を生々しくする。このドラマーの音は驚くべきことに常に一本のスパイク信号のように空間に静止ながら正確かつ変則に時間を刻む。まるで懐中時計のメカニズムのようである。そして佳作の声や動作、その存在が音楽をより生々しいものに変えていった。ふと考えると日本の音楽シーンは今、非常に興味深い様相を呈しているのではないだろうか。Sim、テニスコーツ、オプトラム、POPO、ホース、MUMU、サイトウエレクトリコグッドサウンド、ONJO、スッパマイクロパンチョップ、アナロジック、Gnu、Funnychair、TAMARU、どらビデオ、イトケン+小島剛、ばきりノす、ハコ(ホアヒオ、Ash in The Rainbow) 、今井和雄トリオ、秋山徹次、中村としまる、大蔵雅彦、杉本拓、宇波拓とヒバリ・ミュージック関連の作曲家・演奏家陣、吉田アミ、utah kawasaki、ヒカシュー(復活!)、ダブ平(大竹伸朗)、浅野達彦、アウラノイザズ等など 
バンド・ユニット名だけ列挙してみても(いや、まだまだ存在する!)このバリエーションには驚くべきものがある。もはや個性の爆発と呼ばれたブリティッシュ・ロック黎明期を超え、先カンブリア紀の進化を見るようである。音楽好きの他国からの旅行者がこれらの演奏家を眼にしたら「日本は大変なことになっている!」と興奮して友人に報告するのではないだろうか。しかし所謂メジャー・シーンにはそのような動きは無い。幸か不幸か、列挙した演奏家陣は経済とはあまり縁がないところでの活動を余儀なくされている。それゆえに自由なのだ。各自何の気後れもなくやりたいことを妥協せずやっている。私たちはこの幸福に気づくべきである。やはり行ける範囲でライヴに通い直接耳で眼で体験すべきである。いくらハイファイに録音したとしても、植村のドラミングのダイナミズムはシリコン・プレイヤーからは伝わらない。もしその差が聴き取れなくなってしまったとしたら本末転倒である。時に音盤を置いてライヴに行くべきだ。生きて生まれる音楽を体験すべきだ。

Sim featuring Kamura Moe
"common difference"
MIDI Creative Co,Ltd
CXCA-1199
2006