”Patiruma” 山内桂

omay_yad2007-05-04

タイトル:"Patiruma"
アーティスト:山内桂
レーベル/番号:SALMO SAX 2/SFA002
制作情報:CD・2007年・日本

例えば海や山などの場所にしばらく滞在するとその場所の残像のようなものが肌に残ったような感覚になることがある。その場所の気温や湿度明るさや音などの状態が身体に染み込んだ様に。これはその場所において感じられるものだが、ことさら強く意識されるのはその場所を離れたときである。帰りのバスや立ち寄った喫茶店などでしみじみと先ほどまで滞在した場所の余韻が感じられる。風景によってエンボスされた身体がゆっくり元に戻っていくように、記憶から風景が消えかけていく瞬間。
山内のこのCDのタイトル曲は波照間の夕べの浜辺で打ち寄せる波のもとで作られた。彼の体験した空間の残像を聴くような素晴らしい演奏である。彼のサックス演奏は複数音を同時に発するブレス奏法にその特徴がある。現在、その奏法はフリージャズ・シーンで決して珍しくはないが、彼の演奏は自然環境のように変化自在で聴いていて厭きない。月並な表現だが、サックスは息による演奏とう言葉が頭に浮かぶ。このアルバムは自宅スタジオだけでなく宮崎の小川のほとりでの演奏も収められている。息詰まるようなフリーのソロ演奏を倦厭する者にとってこのアルバムは朗報である。楽器がサックスであることすら忘れてしまうような豊かな響きがある。息が風となって演奏家を通して聴こえてくる。短いフレーズを繰り返すことで、あるいは管を通過する息の強弱に身を任せることで、演奏家の姿は残像のように消えていくようである。