Katharina Fritsch ”Krankenwagen”

omay_yad2005-09-05

■カタリーナ・フリッチェは世界的に有名なコンセプチャル・アーティストであるが、数枚のレコードをマルチプル作品として発表している。彼女は、自分の人生の中で出会った忘れがたい記憶の対象となっている物や出来事の記憶を呼び起こす「指標」あるいは「サンプル」として、写実的な彫刻を制作する作家である。モノクロームに配色されたプードル犬やマリア像など、写実的だが図鑑のようなリアルさは無く、誰が見てもその名前通りにしか見えない客観的で簡潔なフォルムで作られている。そうすることによって、彼女の過去の出来事はその文脈を離れ、観る者にも共有できるものとなり、共生する世界や他者についての思考が促すこととなる。 鋭い視点である。この7inchシングル盤は音による彫刻である。両面ともサイレンを流しながら走り去る救急車の音が無音の中に収められている。 どこか室内で録音されたようで適度にこもった音質、それ以外は無音。具体的な空間の様子は一切伺えない。自分とは無関系ながら、どことなく不安な胸騒ぎを起こさせながら消える救急車のサイレン。私たちの意識を微かにかすめて消えるはかない音。これは欧州の美術雑誌「パルケット」のエディション制作で、録音には何故かATaTakが協力しているところが面白い。尚このレコードは他に2つ、碾き臼の音のEPと蛙の鳴き声のEPが組になっている。これらも同様のアプローチである。
Edition fur Parkette 25 (c) Katharina Fritch■