Roberto Donnini “Tunedless 2”

omay_yad2005-09-30

■メジャー、マイナーを含めてイタリアには多様な実験音楽シーンがある。未来派の時代からルイジ・ノーノまで、もしかしたら前衛=共産主義という図式があったのかもしれない。現在イタリア歌謡界の重鎮のフランコ・バッティアートも70年代にBLABLAなるレーベルでミニマル音楽や瞑想音楽を追求していた。ロック・ミュージックと現代音楽家を結びつける果敢な活動はご存知Crampsレーベルが先駆者だろう。このLYNXという自主レーベルもフリー・ジャズ、現代音楽家プログレッシヴ・ロックのアーティストたちと実験音楽を発表している。このアルバムの参加者はピエロ・リュネーレのArturo Stalteri(彼はソロ・アルバムをここから出している)、オパス・アヴァントラのDonella del Monacoの他、現在も活動を続けている演奏家たちDanniele Lombardi、Stefano Fiuzzi、Roberto Laneri、Giancarlo Schiaffiniなど13人が参加して87年に完成した。単純なコンピュータのアルペジオを伴奏にして各ミュージシャンが一人ずつ即興演奏を録音する。それらを同時に重ね、「調子はずれ(Tunedless)」な曲が出来上がっている。時には不協和音も生じるその音楽は、ミニマルな反復ゆえ感傷的かつ瞑想的な響きがある。それぞれの音楽世界が一緒に重なり合う。個別に行われた演奏には各々相互干渉はない。ミキシング・ボード上で合成されたものだ。この作品はコンセプトを重視するか、単純にその音楽を楽しもうとするかによって評価は分かれるだろう。時代を考えればコンセプトに斬新なものはない。音楽に対する哲学的な考察から表れた方法ではなく、もっと別の視点から作られた作品であると推測できる。ひとつの情報が解釈によっていくつもの意味を産み出すように、色々な場所で同時に様々な出来事が起こるように、不調和が産み出す調和を享受すべきだろう。このコンピューター伴奏は演奏に制限を与え、作品を規定している意味においては、ある種の実験だといえる。だが、言ってしまえばそれだけのことである。幽玄で大らかな響きを聞くとイタリアという国の豊穣さを想わずにいられない。Recorded:Sep.1985-Jun.1987
(c)(p) LYNX Records Z 00188 1987■