Peider A. Defilla ”test-signale”

omay_yad2005-09-29

■このミュンヘンの画廊で制作されたレコードは謎につつまれている。どのような経緯で何を意図して作られたかわからないが、興味深い内容である。ジャケットはシルクスクリーンによる印刷である。その内側には24ページにわたるブックレットが付いている。A面での音源はサイン波だ。聞こえない超低周波からゆっくりスイープするサイン波はいくつも混ざり合い干渉して変化する。緊張感のあるコンポジションであり、純粋な周波数の実験作品とは思えないテンションがある。後半はフィードバックした歪音も混ざってくる。B面は聴覚テストの音声や軍事関係に関連するようなニュースや記録音声がモチーフとなっている。これもドキュメントとはほど遠いカット・アップのコラージュである。テープの速度も変化し、電子エコーもかかっている。そこに戦闘機の飛行音とサイン波のスイープをシンクロさせた音響が挿入される。ラストの音溝はエンドレス・ループになっている。ブックレットにはこれらの曲の図形譜の他、耳の構造図、脳の機能分布や神経系の図式、銃弾を撃ったときの致命傷になる箇所、世界地図上に記された衛星レーダー・ステーションの位置、人型ショックセンサー、レコード・カートリッジ、鹿をしとめる為の射撃箇所などの図や軍隊訓練の写真、ライフルの収納棚などがドイツ語解説文と共に掲載されている。まるでハフラー・トリオが構想した架空の電子音響心理研究室、ROBOLの出版物のような印象である。見開き部分の原子爆弾画像のシルク・プリントあたりは、冗談とも本気ともつかない。このレコードは16〜78回転までどの回転数を選んでもよいと記されている。回転によってサイン波のピッチも変わり、挿入される声も様々な速度があるので、作品として充分成立する。盤面には1978年、ジャケットには1979年、ブックレットには1983年と日付がある。ネットで調べるとPeider A. Defillaは現在映像関係の仕事に携わっているようだ。リリース元のB.O.A.は現在も映像音楽のディストリビュートを行っている。
このレコードは、まるでインダストリアル系から発展したWhitehouseやNWW等の音楽のように聞こえる。80年から90年の間に表れる実験的な音楽の世界を先取りしたかのようだ。私たちの耳にたまたまそのように聞こえるだけなのだろうか、気になる音盤である。
(c) b.o.a. Edition Verlag Galerie 50335-6 1979 1983■