wrk V229

omay_yad2005-09-28

■このWrKの共同作品は、マイクロフォンからアンプを通してスピーカーで再生する過程、
すなわち音声信号を別の空間に搬送する伝達経路とは如何なるものか、ということをテーマに作られた作品である。
toshiya tsunodaは伝達のための情報の変形を扱っている。物理振動を周波数カウンターに入れる。周波数カウンターは入力された周波数を読み取り数値を割り出す測定器である。この機械は、読み取りのために入力される振動を平坦な矩形波に変形する。これは計算のために回路内での翻訳のような処理である。片方のチャンネルにはマイクで録音した物理振動を、もう片方はその音を翻訳された計測信号を収録している。この振幅の揃った矩形波と、振れ幅の自在なサイン波が左右のスピーカーで比較される。
hiroyuki iidaは微弱な電気信号を伝達するための増幅という動作に着目する。増幅器=アンプの設計では信号をどのような比率で増幅するかが問題となる。彼の自作したアンプは増幅曲線を折りたたむような特殊な方法をとる。もう一段そのアンプを通すと更に折りたたまれ、繰り返していくとホワイトノイズに近づいていく。その過程が順を追って提示されている。
jio shimizuは伝送系に流れていく交流信号に言及する。十数秒間の周期性のある物理振動の録音を15分に引き伸ばした音響が片方のチャンネルに収録されている。もう片方のチャンネルにはその振動の波形が0ボルトになった地点にパルスが入るようになっている。周期運動に応じてパルスの分布が変化する。この録音作品は、彼の振動の静止ポイントを探す作業の一環でもある。最後の30秒はそのモチーフとなった周期運動が完全に静止しており、パルスが連続して出力されるため微弱な直流信号となる。この信号により再生するスピーカーは振幅を止め、電圧により僅かに張り出した状態になる。
m/s(minoru sato)は情報の変換を扱っている。マイクで拾った物理振動を小型のライトに出力する。ここで物理振動は光と熱に変換される。その明滅を太陽電池で拾い、最後に私たちがこのCDを再生するスピーカーのコイルの運動へと受け渡す。このトラックを再生すると、太陽電池が変換した電圧の変動により激しくスピーカーが動くのが観察される。
私たちが慣れ親しんでいるオーディオ情報の伝達経路はその仕組みをよく見ると、入り口から出口までよどみなく繋がるひとつの流れのようなものではない。この共同制作は、オーディオ伝送系が物理的あるいは電磁気学的に関連の無い現象同士が半ば強引に接合されていることを証明する。それは、ある現象が別の現象に受け渡され変換されていく、一種の翻訳システムのようなものである。尚、このCDを再生する際は音量に充分注意する必要があることを追記しておく。スピーカーに多大なダメージを起こす恐れがある。
(c) V2_Archief V229 1999■