Jliat “Stilllife#5”

omay_yad2005-11-05

■このCDは強烈である。再生ボタンを押した瞬間ブチッと音がしたあと一向に音がしない。ジリアットはこのスティルライフのシリーズでデータCDを出していたこともある。そこでパソコンに入れてみる。再生ソフトの波形図は静止して何の振幅も無い直線を描いている。しかしCDは走っている。次のトラックにすると波形図は止まったままだが、直線の水平位置は少し上に移動する。更に飛ばすと波形図は同様に静止したままだが、また水平位置が動く。CDプレイヤーにもう一度入れてゲインレベルを確認するとほぼフルビットである。次のトラックにするとゲインはその半分。スピーカーのコーン紙に手を当ててトラックを変えてみるとコーン紙の張り出しの具合が変わる。なんと恐ろしいことに、このCDには微弱な直流信号だけが入っている!ブチッという音は直流が0ボルトから一定レベルに立ち上がった時の電圧差だったのだ。解説にはこう書かれている。
JLIAT 6 TYPES OF SILENCE Still Life#5-James Whitehead 2000 Six ten minuite pieces made by writing by continuous values of binary data into a PCM sound file.
1. Boogie +32767
2. Swing +16837
3. Jive 0
4. Ragtime -1
5. Be-bop -16837
6. Hip Hop -32767
符号の後に続く数値表記は電圧値だろう。ライン入力の最大振幅の値は0.34ボルトである。0.32767ボルトはほぼフルビットの値である。理論上、プラス側はスピ−カーが張り出しマイナス側では同じ値でマグネット側に引っ張られるはずだ。トラック4以下はマイナスの値である。ボリュームを大きく上げて再生すればスピーカーのボイスコイルは難なく切断されるだろう。場合によってはアンプが先に死ぬかもしれない。ディスクの記録面を見るといままで見たことがないくらいに各トラック毎縞模様がくっきりと表れている。このCDはオーディオ装置のための彫刻作品なのかもしれない。ディスクのピットの凹凸とスピーカーにかかる磁力は紛れもない彫刻の所作である。ジリアット自身は音声データが詰め込まれた静寂と称し、音楽の形式をタイトルにつけているからそのような意図ではないだろう。これまでの彼の作品は徹底されたドローン音楽であった。90年代初頭は叙情性のあるものだったが、徐々に感覚的な要素は影を潜めた作品が登場してきた。近年はCD-Rのみのリリースもかなり多く、このStillLifeシリーズも継続されているようだ。彼の音楽にその結果がどのように反映されて展開していくのだろうか、楽しみである。
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