Sean Meehan ”Sectors(for Constant)”

omay_yad2005-11-06

Solo for cymbals with snare drum
■特殊パッケージのCDは数に無く存在するが、このショーン・ミーハンの2CDアルバムは究極のひとつであろう。紙漉き職人でもあるこのパーカッショニストは2枚のCDを紙に漉き込んでしまった。ちょうどファブリアーノのような上質の厚手水彩紙の中にCDが封印されている。これを取り出すには紙を破かなければならないが、エンボス加工のようなこの紙片を見ると無神経に切込みを入れるのは躊躇される。裏から慎重にカッターの刃を入れ取り出すのが最善の方法だろう。所要時間は最低でも30分はかかる。この作業中にこのCDを聴く気持ちのセッティングができる訳である。そしてその内容が素晴らしい。シンバルの表面とスネアドラムの皮面に薄く松脂を塗布する。それに同様に松脂を塗りつけた20センチ程度の棒をその皮面に置き、その棒を慎重に擦ることで発音させた演奏が長尺の無音を孕みながら50分程度収録されている。もう一枚も同様の演奏である。その音だが、打楽器の音というより、オシレーターのようなバイオリンのような持続音である。弓奏と同じようなものだろう。ここでは叩くという所作は一切無い。数回にわたって発音されるが、それらの音の音色は毎回ことなる。時報のサイン波のようなものもあれば、歪んだ電子音のようなもの、低い周波数を伴ったものもある。2枚あるディスクは盤面の色が違うだけで何の表記も無い。どの音がスネアからなのか、シンバルなのかは分からない。彼はもともとドラムセットを用いた演奏を行っていたそうだが、徐々に切り詰めてこのような演奏になったそうだ。もはや楽器でなくても可能な音だが、彼自身の制作過程における必然的なミニマム化であり、そこに楽器が在るから私たちには何の情報がなくともその過程が想像できる。その態度がすでに演奏を形作っていると言えよう。完璧な作品である。
Soseditions 802 2005■