m/s + toshiya tsunoda “ful”

omay_yad2005-11-04

■このCDの録音状況は以下の通りである。ある密閉性の高い室内の窓の上部に通気用の小窓が付いている。小窓のガラスは時折パタリと音をたてる。これは恐らく室内外の気圧変化によるものらしい。窓ガラスにコンタクトマイクを設置し、これをアンプで増幅しスピーカーから小さな音量で再生。室内にフィードバックのループを作る。収録されたものにその効果はあまり現れていないが、この操作によって対象に影響を与え、ある種のドキュメント録音とは違ったものとなる。マイクは窓に響く周囲の環境音とその部屋の内部の暗騒音を拾う。小窓の音も増幅され大きなアタック音となる。窓に響く暗騒音の持続音は低周波で音量も小さいためこのCDをリスニングルームの暗騒音に溶け込みリスナーはそれに順応する。突然聴こえるアタック音(60分のうち20回程度)によってこの音響を受容している状態に気づかされることになる。それは同時に私たちの知覚と認識の閾値に気づくことでもある。このCDは再生する室内で擬似インスタレーションとなるように意図されている。ここでメインとなるものは、収録された環境で起こった出来事である。気圧の変化は常に安定した状態を維持するように働く。小窓のアタックはその変化のひとつであり、操作不可能な環境全体から起こる小さな出来事である。窓に伝わる暗騒音も同様に。この作品は音楽でも演奏でもない。したがって「音響」や「聴く行為」に向き合うのではない。これは私たちの知覚の観察とそれについての意識の向け方に焦点を当てた作品である。
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