”battimenti” Pietro Grossi

omay_yad2007-01-14

タイトル:battimenti
アーティスト:Pietro Grossi
レーベル/番号:ants/AG03
制作情報:CD/イタリア/2003年

オシロスコープのプローブをオーディオ・システムのスピーカー端子に繋ぐ。極微弱なランダムな波形が表われる。アンプの電源をオンにするとランダム波形は一本の静止した線を描く。これが無音/オフの状態である。スピーカーは電源を入れる前と後では見かけ上の変化は無いが、オーディオ・システムにおいて「無音」とはひとつの「状態」である。
今度はその直線をヒモと仮定してみよう。ヒモは揺れると波を描く。サイン波はその波の幅と高さがずっと同一の状態で続いたものである。この幅が細かければ周波数(ピッチ)が高くなるのである。高さは振幅、音量である。一定に揺れているヒモに、もうひとつ異なる周波数の波を加えれば2つの波は重なり合い、ヒモに表われる波形は変化する。そこにまた別の周波数を重ねれば、当然ヒモの波形は影響を被る。電気信号は常に一本のヒモのような一次元の運動である。いくら異なる信号を多重ミックスしようとも複数の次元(ヒモ)にはならない。
この作品は395Hzから3刻みで405Hzまでのサイン波に1〜11の番号をつけ、それらを坦々と重ね合わせる作業を、組み合わせを変えながら繰り返すものである。近似値の周波数は干渉し、その都度周期の異なる単調な音の連続となる。極端にミニマムな電気信号の実験のようだが、これを実証しても何の成果も達成できないだろう。彼の関心は組み合わせという事自体にある筈だ。これが音楽であるとしたら、組み合わせは作曲作業に他ならない。電気信号の一次元運動を作曲空間へと変換させているのだ。作曲空間とは私たちの志向性を反射させる場、つまり意味作用を形作る空間である。
グロッシは1917年生まれ、この作品は1960年代初頭のものである。