【新譜紹介】”and so on” Mitsuhiro Yoshimura

omay_yad2007-01-21

タイトル:"and so on"
アーティスト:Mitsuhiro Yoshimura
レーベル/番号:(h)earings/HR-01
制作情報:CD・2007年・日本

吉村はミキサー(あるいはレコーダー)にマイクとモニターヘッドフォンを繋ぎ、そこで起るフィードバックを演奏とする。時に僅かにヘッドフォンを動かすこともあるようだが、フィードバック音は演奏の開始と終了を、その演奏そのものによって提示する。演奏がどのようにして音楽となり得るのか、と問い詰めながら行われた実践である。この慎重な洞察力は評価すべきだろう。
一般にハウリングと呼ばれるフィードバック発振の音をそれが発音された空間に応じたものだと断定することは間違いである。パイプ管のような細長く狭い空間でマイクとスピーカーが対峙して置かれるような場合は、その気柱の長さとピッチは比例するが、たとえそのような理想的条件であっても、ある程度の音量を超えたものは、実はマイクからスピーカーを含めた電子回路内で発振されたものである。このことは実際に耳にするフィードバックの音が大体いつも同じ(数種類)ピッチであることを思い起こせば理解できるだろう。もし純粋に実空間との作用でフィードバック・ループが形成されるとしたら、空間の体積に応じて何オクターブもの幅を持った音が発生するはずである。それでは吉村のフィードバックは空間と無関係なのだろうか。そうではない。何の動きもない空間におけるフィードバックは回路内で安定し、一切変化を生み出さない。吉村のそれは一瞬たりとも静止してはいない。これは伝播する際の空間で起る動きによって変化したものである。観客や吉村自身あるいは空調や外部からの音などがトリガーとなって、その持続音に切り替わる契機を与える。このCDで聴かれる音の変化は、ネコ科動物の動体視力に喩えられるかもしれない。動いた瞬間に生み出された変化が記録されている。注意して聴くと安定しているかにみえる音も常にその振幅が揺らいでいる。その意味で空間の音であり、まさしくライヴである。シンプルな装丁のCDには大谷能生と杉本拓によるライナーが同封されている。