Annette Krebs “guitar solo”

omay_yad2005-10-26

■アンネット・クレブスは女性のギタリストである。このCDはギターソロと題されエレクトリック・ギターを使用しているはずだが、その楽器らしい音はほとんど聴くことができない。微かな物音が余白の空間に散らばっている。集中して聴くと音の印象が変化する。放射される微音がどこに着地するか見守るように聴くと興味深い表情を見せる。まるで空中に舞い飛ぶ羽毛を見るようである。リアルタイムで録音されたこれらの音は、あえて「即興演奏」と呼ぶほうが奇妙なイメージを与える。ノイズでも楽曲でもない演奏。音にバリエーションがあるゆえに特定の文脈を常にはぐらかし宙吊りとなった音の散文。もともとエクスペリメンタル系に意図された音楽は特定の音楽に対する幾ばくかの反対意志あるいは制度的な聴かれ方を逸脱したものであったが、昨今のそれらはかつてのような方向性を待たず、むしろそれ自身の自己証明のようなものにシフトする動きがある。私小説というより日記を書く作業に近いかもしれない。それは誰にでも書ける。しかし日記では「文学」にならない。いや、これらの音の制作作業は日記のようなものかもしれないが、出てきた音はリスナーにとって日記にはならない。音は作者とリスナーの間にあるものである。いちいち作者に結びつける必要はないだろう。この動向がその後どのような方向に向かっていくのだろうか。いつまでもその位置に留まっていられないだろう。方向性の在り方そのものもこれまでとは変わっていくかも知れない。しかし必ず新しい何かが産まれるはずである。新しい何かが始まり現在あるものが廃ってしまっても、このCDで聴かれるような音楽は依然として空中に浮かんでいるだろう。そしていつになっても音に向き合う態度の違いによって表情を変え続けるだろう。(Recording in Berlin 2001)
Fringes Recordings/Italy fringes 11■