Taku Sugimoto Yasuo Totsuka & Mattin ”Training thoughts”

omay_yad2005-09-14

■CDジャケットの裏には「これは高円寺駅を通る電車の音を記録したフィールドレコーディング作品だろうか。答えは否である。演奏家が音を染みこませることで、地理的な環境を音楽の中心へと移行させた即興演奏の記録である。」と記されている。つまりここに記録された3人による即興演奏は、ある場所に於ける状況をメインに捉えている。その状況に自らの演奏の方を「文脈」と見做して演奏している。誤解を恐れず言えば、自らの演奏を脇役としている訳だ。この関係の置き換えは、聴く側にも発想の転換が必要となる。一見すると、ケージの「4'33"」と似たアプローチだと考えられるかもしれない。しかしあの曲の本質は時間の分割であり、演奏され、聴かれる「場所」は偶発的な要素であった。このアプローチの差を小さいと考えるか、大きいと考えるかは、各自の判断に委ねられるだろう。演奏がその場所で行われる必然性は無いとしても、場所と音楽の関係に注目し、通常の対比関係の反対側から見直すことで、今まで見えなかった何かが見えてくるかもしれない。私たちの見慣れた景色の中に、実は見たことの無いものがいっぱいあるのだ。CDに収録された電車の音は意外と小さく、充分すぎるほどの空白にゆったりと放たれる音が非常にスリリングである。私たちは演奏録音を聴くだけで、奏者の動きが見えないから尚更だ。概念や主義主張、スタイルや形式へのこだわり、またはそれらの分析や整理が音楽を理解することに必ずしもつながる訳ではない。油断するとその逆になる場合がある。このCDは、できるかぎり静かな状況で、一音も漏らさずじっくり対峙して欲しい。最後まで聴いてゆっくり獲得される繊細な音楽である。音数の少ない演奏が実に愛おしい。
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