Alvin Lucier “Silver street car for the orchestra”

omay_yad2005-09-16

■アルヴィン・ルシエのこの3inchCDは、トライアングルを握った指の位置を徐々に変えながら倍音の変化によって構成される曲である。一定のリズムで連打されるトライアングルには、奏者の手から熱が伝わりピッチも極僅かながら変化する。それ以外一切の編集加工は行われていないのが信じられないくらい、驚くほど音の変化に富んでいる。音響に対する深い造詣があるゆえの簡潔さは見事としか言いようがない。所謂クラシック音楽の楽器は、汎用性が求められ改良が加えられてきた。現在、楽器の進化はほぼ終了していると言えよう。民族楽器のように節くれだった樹木を利用して作られたものとは大きく異なる。このトライアングルの扱いは、奏者の握り方しだいで音は変化する。この楽器にはオーケストラ用に制定されたピッチのものが使用される訳だが、ルシエの振動の固有性を主眼とした他の作品から想像をたくましくすると、西洋クラシック音楽に見落とされた側面を問題にしているようにも感じられる。トライアングルの倍音は雄弁にその欠落を歌い上げている。
Produced by hr & algen Algencd 120■