Leif Elggren ”Cu”

omay_yad2005-09-26

■リーフ・エルグレンの活動は理解しがたい特殊な一面がある。秘密結社の儀式めいたオブセッショナルな行動が多々見受けられる。察するにこれは北欧の歴史、政治、文化に関連しているのだろうか、私たちには理解が及ばない。
このカートン・ボックス入りのシングル盤は1982年の作品。これは彼がちょうどSons of God やPhaussで活動していたころの作品である。箱の中には解説と制作時の写真、厚手の紙に印刷された銅版画が1枚、レコードと一緒に収められている。その録音は銅板にコンタクト・マイクを取り付け、ニードルで引っ掻いている音が両面に収録されている。解説にはA面は「明るい部屋で銅板画ができるだけ暗くなるように削る」B面は「暗い部屋でできる限り明るくなるように削る」と書かれている。同封された版画はA面の録音のものである。銅版画の行程は、最初に銅板を鏡面のように磨く。これをニードルで削り化学的に腐食させた後に油性インクを塗り付け、プレス機で刷られる。「暗くなるように」するには、深くたくさん削らなければならない。明るい部屋で、磨かれた銅板の映り込みは、ひたすら削られる。その筆跡によって鏡面は失われ、不透明な光が乱反射する。暗い部屋で「明るくなるように」するにはオイルを滴下しながら筆圧を掛けずに削ることになる。そこには暗い映り込みが微かに残るだろう。
レコードには生々しい物質音が収められている。彼の映像作品にこのレコードと関係していそうな内容のものがあった。冒頭のシーンでリーフはパフォーマンスめいた状況で銅版に何かを刻んでいる。その後軍服のようなものを着た2人がその銅板をがっしりとした木箱に納め、険しい山道を運ぶ。ラストシーンは川に阻まれ挫折する。バックには微かに外国の軍歌のような合唱曲が聞こえる。それと同様にこの銅板には何かのメッセージが託されているのだろうか。レコードの音溝とニードルの溝の類似性が意図されているのだろうか。気になるのは「暗くなるように」「明るくなるように」という表現である。インクは黒であって「暗くなるように」するということは物理的に黒いインクがたっぷりと画面に「定着」することである。黒と暗いは別である。明るい部屋で、あるいは暗い部屋で削るという行為があるからこそこの言葉の意味が成り立つ。制作時の写真には寒そうな地下室でニードルを持つ本人の画像がある。一切の加工が成されていないレコードの音は筆圧のニュアンスこそ伝えるものの暗い、明るい、といった印象は受けない。しかしここに闇と光が関わっていることは確かだろう。闇の中で光を見る、光の中に闇を見るということなのだろうか。音からは一切メッセージは感じられない。なぜ銅という素材が選ばれたのだろうか。あるいはそのようなメッセージが伝わらないことがテーマなのだろうか。メッセージや意味は物質に定着させる事が可能なのだろうか。メッセージや意味とはそもそも何だろうか。もしかしたら、それこそがオブセッショナルなことなのではないだろうか。いずれにしろ答えは闇の中だ。明白なことはひとつ。彼は作品のタイトルをCu、すなわち銅の元素記号にした、ということだけである。
PHAUSS PH 1001 (c) PHAUSS och Leif Elggren■