TUVA:Voices from the Center of Asia

omay_yad2005-10-04

■少しでも民族音楽を聴いたものなら慣れ親しんだ音楽文化とは全く異なる基盤に直面し、戸惑いが起きるだろう。やってはいけない発声法や間違ったピッチの不協和音が堂々と響いてくるからだ。この中央アジアに位置するトゥーヴァ共和国でのホーメイや歌の器楽伴奏を収めたCDは飛び切り風変わりな音がたくさん収録されている。ホーメイは喉の奥で唸った声の倍音を口腔の形を変えて二重三重の音を発する唱法である。その美しい倍音メロディーは口腔空間で作り出される。音は歌い手の身体に依存する。演奏者によって音が変わってしまうのは当然であり、その個体差がメロディーと融合し豊かな響きを形作る。ここが西洋クラシックから発展していった平均律システムと大きく異なる。音楽と演奏と演奏者が渾然一体となっている。個人を越えた伝承音楽の中に個体差が肯定される。このような基盤からここにある音楽は生まれた。楽譜など必要ない。この音は、楽音というよりむしろ動物や鳥などの鳴き声に近い。生活環境で聞かれる生き物の声が楽器や歌の原点なのだろう。私たちが平均律に慣れているように自然なことだ。そうは言っても、このCDに収められたホーメイのヴァリエーションには圧倒される。低音や複数の合唱、同時に口琴を奏でるもの、唇を指で弾きながら発声するもの、その他、様々な鹿の声の真似、嘆き歌の泣き声などなど33トラック収録されている。モンゴル文化圏だがトゥーヴァは秘境の地のようだ。豊かな自然の賛歌でありながら、計らずして人間の声による音楽の可能性を追求するCDになっている。
Smithonian Folkways SF 40017 (p) (c) 1990■