Arnold Dreyblatt  “The Orchestra of Excited Strings”

omay_yad2005-10-05

■楽音には必ず倍音成分が存在する。ギターなどで用いられるハーモニクス奏法というものがある。チューニングの際に行われることがあるが、弦の特定の部分に軽く触れて弾くとその基音が少しミュートされ倍音を聴くことができる。アーノルドを中心とする5人のアンサンブルはそうして表れた音を音楽の主題に据えたものである。通常のように平均律のフレットで音を分割するのではなく、弦の長さを対数比で分割し、新しい響きを作り出す試みである。このCDに収められた8曲は速度や音色の差はあるものの、どれも2拍子のような単調なリズムによる音楽である。ハーモニクスを奏でる楽器はコントラバス2台、ギター、小型ピアノ。コントラバスは弓の持ち手部で弦を叩きながら演奏しているようである。弓奏はされていない。その伴奏はポータブル・パイプオルガンやハーディ・ガーディによるドローンである。基音に気を取られるうちには単調にしか聞こえないが、幾重にも重なり合った倍音列が聞こえだすと、音楽は俄然輝きを増したような印象を受ける。埋もれて聞こえにくい成分は、いつもの位置から見えない、死角のようなものかもしれない。全体として聞こえる音から、倍音成分だけ抽出してスペクトル解析のように聞き取るのは不可能に近い。弦から叩き出された伸びやかな倍音の饗宴。楽器が新しい言葉で会話をしているような開放感がある。この音楽は、楽音の中に存在したが、気づきにく使われなかった言葉によって新しい会話を創造したのだ。5人の演奏をアンサンブルではなく、オーケストラと称したのは、あながち大袈裟ではないかもしれない。一回のストロークでいくつもの言葉=倍音が語りだすのだから。尚、この作品は当初JazzのレーベルIndia Navigationから1982年にリリースされていたことも興味深い。
Dexter’s Cigar Dex15 1997■