The Entire Musical Works of Marcel Duchamp

omay_yad2005-10-13

■これはマルセル・デュシャンが残した楽譜を演奏したものである。70年代にアナログで出ていたものの再発CDである。ケージがデュシャンと交流していたことは比較的知られているが、彼がチャンス・オペレーションという手法によって偶然性の音楽を編み出す遥か50年前に、巨匠デュシャンが同じ方法で作曲をしていたことはあまり知られていない。ここに収められたErratum Musicalという曲集は、音符を記したカードを帽子の中に入れ、そこからくじ引きのようにブラインドで引いた音符を次々と楽譜上に配置していったものである。デュシャン自身と妹2人のために作られた歌曲は辞書の「印刷する」という言葉の解説文をその歌詞に仕立てたものだ。楽曲はケージを髣髴とさせる。最後に収められている「音響彫刻」の演奏は無数の既成のオルゴールや玩具などを一斉に発音させたもので、これも思い浮かばずにいられない。
このような発掘音楽は、先に見出されている著名なものの脈絡に接続されてしまう。演奏しているs.e.m.ensembleもケージを足がかりにして、この楽曲を演奏したはずである。そのような状態の演奏に「脈絡」を無視して直結するのは難しいだろう。しかし静謐な空間に放たれた偶然の音符たちは美しく響いている。様々な音楽が相対化した今、私たちは直接この音楽に接続するのは以前より容易になっているのかもしれない。
s.e.m.ensemble:
Petr Kotik-alto flute
James Kasprowicz-trombone
William Lyon Lee-celeste
John Bondler-glockenspiel
Recorded on may 7th, 1976 at Studi Regson,Milano
ampersnd ampere5■