Atsushi tominaga “056”

omay_yad2005-10-15

■WrKで活動していた富永敦の7インチシングル盤は、家庭用電子レンジに小型スピーカをセットし数分間作動させた記録である。彼の音響作品は電磁誘導による磁力線上の出来事を記録したもので一貫されている。スピーカー2本を電線で繋ぎ、一方のコーン紙を手で叩くと電気を通さなくとも、もう片方のコーン紙から微かな音がする。彼はこのシンメトリーな入出力システムに関心を持っており、電磁波の発生する生活機器と観賞用スピーカーがイマジナリーな相似形となることを意図した作品である。そのシステムの途中には人間の聴覚では捉えられない電波空間が介在し、記録物体によって仮初にも時空間の異なる地点、つまりリスナーと作者の間に相似形が形作られるように意図されている。その記録された音響は、チューニングが外れたラジオのような電子的な雑音がゆっくりと表れては消えるもので、過激な音ではなく、現代の生活風景の記録という印象を受ける。片方のサイドでは、金属シャーシ部分をアンテナのように伝わってきたものか、韓国語のラジオが聞き取れないくらいの音量で混入している。トラックの頭と終わりには電子レンジのパイロット信号が聞き取れる。このシングル盤はオランダのmeeuw muzakから98年頃、クリアー・ビニールで200枚程度の限定数でリリースされた。ジャケット表には富永自身が撮影した録音風景の写真が貼り付けられている以外、一切のインフォメーションが記されていない。もしかしたら彼自身は制作におけるコンセプトが理解されることによって作品が消化されてしまうことを恐れたのかもしれない。あくまでも彼の興味は作品の再生によって実現するイマジナリーな相似形にあるのだろう。そして、それを可能にする奇妙な記録物体の存在そのものに。
meeuw muzak 010■