寺内タケシとブルージーンズ ”禅定”

omay_yad2005-10-17

寺内タケシの小学校時代のエピソードは有名である。徴兵中の兄のアコースティック・ギターに電話から取り出したコイルを取り付け、親の目を盗み真夜中に自宅に設置されていた町内連絡放送機器につないで世界初の電気ギターを爆音でかき鳴らした。近所の人は空襲警報と勘違いして飛び起きたそうだ。彼はいまだに意欲的で、10トントラックに身の丈ほどのアンプやミキサーとしてレコーディング・スタジオに常設するような大型コンソール卓を乗せ、無償で行うハイスクール・コンサートを還暦を過ぎた現在も続けているのだから恐ろしい。
1972年から74年あたりまでは彼等は当時のロック・フィールドでも実験的な試みを行っていた。
羅生門』というアルバムは日本のプログレッシヴ・ハード・ロックとして世界を驚嘆させる演奏が聞ける。当時のブルージーンズにはサイド・ギターの石井イワオ、キーボードに桐生和史がおり、その当時のライヴ盤『夜明けに向かって歩く』や太平洋上でのライヴ録音『日本脱出グァム・マリン・ツァー』で披露された曲から、彼らが当時のロックを研究していたことが想像できる。石井作の「オリエント」はブリティッシュ色の強い骨太のリフによるジャム曲、桐生作「Eruption」はEL&P風、「カラハリ砂漠の印象」はオランダのフィンチのようなプログレ曲である。LP『津軽じょんがら節』で、彼はEL&Pの「トッカータ」を引用したアレンジを披露し、箱根のスタジオに3ヶ月篭って作った10枚組LP「日本民謡大全集」ではメロトロンを弾いている。『羅生門』に続くこの『禅定』というアルバムは人間の限界に挑戦する手段のひとつとして、禅寺で修行をした後に制作されたものだ。A面2曲、B面3曲の長尺曲で占められている。ここに寺内の音楽人生の中でもっとも実験的な「無」という10分の曲が収められている。これはスタジオでブルージーンズのメンバーに座禅を組ませ線香を焚き、禅寺の疑似体験をリスナーに提供しようというものである。
冒頭にエレキ・ギターの逆回転の音が鳴り、仏具の鐘などが打ち鳴らされる。その後は、静かに虫の声や遠雷、雨、汽車の通過音などの具体音が消えては現れる。そこに寺内の怒声が「動くな!」と喝を入れる。微かな声明が響く。ラストはメトロノームと心音、オルガンのドローンと冒頭のギターの逆回転がフェード・インしながら大きく迫って終わる。
寺内最初で最後のミュージック・コンクレート作品である。現在この曲は田口史人監修のCD、続・音楽の基礎研究2「寺内タケシの真相〜Progressive Terry!」(King Record Co.,LTD BRDGE-033)で聴くことができる。
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