Quadradisc Atom Heart Mother

omay_yad2005-10-18

■これは3枚組みのプライヴェートCDである。ピンク・フロイドの「原子心母」の4チャンネル・ミックスのマスター・コピーから落とされたもので、Disc1はオリジナル4ch Mix、Front MixとRear Mixは別々にDisc2 Disc3に収められている。Disc2とDisc3を2つのステレオで同時再生すれば4チャンネルを楽しめるようになっているのだが、興味深いのはDisc2と3を別個に聴くことである。片方の側ではメインに聞こえる楽器が完全にオフになっているので、通常のステレオ・ミックスで聞き取れない音が聞こえる。あのハーレーのエンジン音と馬のいななきの唐突でシュールな音響コラージュもクリアーに細部まで聞き取れる。まるで見慣れた景色を別の位置から見るような新鮮な驚きがある。通常のステレオ・ミックスでは切り離すことができなかった音の層の内部に入ることができる。ポピュラー音楽は各楽器がミキサーによって束ねられている特殊な階層空間である。そこから2つの音声、ステレオ信号がリスナーに提供される。モノラル音声と比べたら遥かに空間的な広がりを感じることができるが、4チャンネルでは更に2つのスピーカーを背後にセットし、音像の内部に入り立体的に聞こえるように4点の中心にリスニング・ポイントが設定されている。4チャンネル・ステレオの立体音響は再生システムによる効果である。それは通常のステレオ信号の効果以上だが、楽曲の構造そのものの内に入るわけではない。リスニング・ポイントを固定せずその内部にリスナーが入り込み、主体的に様子が伺えることが本当の立体的な音響体験である。視点の移動によって景色に変化がないのでは、見たことのない景色は現れないだろう。2つのディスクをそのまま別個にステレオで聴くこと…Front MixとRear Mixの同時性を犠牲にすることによって、リスナーは階層空間の中に入ることができる。このアルバムの通常ミックスのサウンドは、その時リスナーの経験の中でこれらのディスクを聴くときのリファレンスとして作用する。見たことのない景色はこれを頼りに発見される。真実の立体音響はリスナーの体験とそのフィードバックの内に存在する。追記すると、名盤の誉れ高いこのアルバムで印象的なほとんどの部分はRon Geesinの手によるものである。ホーン・セクションの作曲および編曲、ハーレーのコラージュ、チェロの甘美な旋律、奇妙な言語によるコーラスの作曲、編曲…そしてアルバム全体の構成とタイトル選択の提案までも…このアルバムはギーシンとフロイドの共作とすべきだっただろう。
Promotional Copy Not For Sale QD-002-1-3■