Melchior “Uppysingar”

omay_yad2005-11-02

■このMelchiorというバンドは版画家ディーター・ロスがほとんど勢いで立ち上げたかのようなレーベル、Dieter Roth Verlagから『Balapopp』というLPとこの7インチ・シングルをリリースした。彼等はアイスランド出身の知的で少々屈折した感性が発揮されたトラッド・フォーク・バンドである。音楽的に興味深いものがあるが、この中途半端な運営のレーベルでこのジャケットだったせいか、誰の関心も集めなかったと思われる。また音楽系のルートではなく現代美術書籍の流通経路にあったため、この手の音楽ファンの眼に止まらなかったようだ。プレスもせいぜい300枚程度であろう。○面は「The Funny Thinking Man」は、ピアノにアコースティック・ギター、女性のバック・コーラスとチェロの伴奏。憂いに満ちた叙情的なボーカルとコーラスによるブリティッシュ・フォーク調の曲である。+面 は「A Song Of Long Forgotten Fame」。ビーチ・ボーイズのSMiLEセッション音源をフォーク調にしたような面白い曲である。いずれも録音などのプロダクションは素人臭いがそこに味がある。2曲ともに効果的に現れる女性ボーカルはHelga Moller。70年代に活動していた歌手だったようだ。歌とチェロ、ピアノを演奏しているHilmar Oddssonは映画監督として、 ギターのHrodmar Sigurbjonssonは現在アイスランドで作曲家として活動しているようだ。リーダーと思しきKarl Rothは版画家ディーター・ロスの息子だろうか。現在の活動暦から想像すると、短命に終わった芸術家たちの集合バンドだったのかもしれない。ある分野の集団に純粋にそれだけに特化されない人間が混ざると、そこにはレベルの差こそあれ葛藤が生じる。しかしそこで起こる波紋は時に魅力的である。一枚岩で繋がった中心に向かう力の強靭さには説得力があるが、どこかギリギリで成立するバランスには外側に向かうベクトルが内包されるため、コンセプト面だけでは成し得ない輝きが生じる。
Melchior(Gina) A-2059 Dieter Roth Verlag■