Ron Geesin “Right through”

omay_yad2005-11-08

■ロン・ギーシンのこのアルバムは正しく音のシュールレアリズムである。A面冒頭の「Door-o-plane gets its blades」のコラージュが凄い。不気味なドローンが鳴り響く中、小人の合唱のようなものが近づいてくる。突然ドアが開き、あたかもその小人たちが室内に入ってくるかのようなリアルな音響となる。バタンとドアが閉じられる。何度となくドアの開け閉めの音が繰り返される。そのうちドアの開閉の音が激しく連続し、そのまま飛行機の音になり飛んでいってしまう。暗鬱なファンファーレと共に、気が狂ったような歌やマンドリンや不思議な音響が矢継ぎ早に飛び出す。飛行機は再びドアの開閉の音に時折変わりながら遠くに消えていく。これらの具体音によるイマジネーションの世界は強烈である。視覚では不可能な効果である。冒頭の小人の合唱のもととなった韻を踏んだ詩の朗読や笑い声や泣き声の多重録音、階段を駆け上りそのまま落ちる音など奇妙な音響のオンパレードである。イギリスのTV番組でボードビリアンとして活動していたこともある彼のコラージュはユーモラスである。ロジャー・ウォーターズとの共同制作のサントラ・アルバム『the body』は有名だ。77年発表のこのソロ・アルバムにはコラージュ音楽だけでなく楽曲も収められている。それらはすべてロンによる多重録音のシンセやギターの不穏な空気の漂う世界でこれもイヴ・タンギーのタブローを連想させる。中でも秀逸なのは「Four guitars did laugh,then thought again」である。イントロで先のドアの音がリズムを刻みギターと数回掛け合いをすると突然ギターが笑いだす。本編はガット・ギターの四重奏である。ぼんやりと思考が始まり徐々に思考が発展し、はっとするアイデアが噴出した瞬間の過程を表現している。イメージ通りの曲の展開が見事であり、彼の類まれな作曲力が発揮される。
まさに狂気の才能、ロンの思考過程を音にしたかのようである。
Ron Geesin Product RON 323 (p) 1977. Full copyright: Ron Geesin■