Chant Grégorian Abbaye du Thoronet

omay_yad2005-11-16

欧州の教会音楽、特に10世紀前後のそれを聴くと建築との関係を意識せずにはいられない。
グレゴリオ聖歌がどのように発展して行ったかは諸説紛々入り乱れ簡単な結論は出せないが、現在CD等で聴くことができる現地録音の教会音楽はその場所にほぼ定着したものであろう。それは、その場所に交錯する過去の歴史によって編み出されたものであり必然性があるものと理解して良いだろう。
このCDはフランスのシトー派のル・トルネ修道院での男性独唱によるグレゴリオ聖歌である。この教会はロマネスク建築の有名なもののひとつである。
ロマネスクの特徴であるアーチ型の建築要素が随所に取り入れられた堂内では、豊かな残響が作り出される。細長いドーム状の空間は左右線対称のアーチ型を基準にして作られている。頭上は円形によって覆われ、ひとつの完結した世界感を観る者に感じさせるであろう。同時にそこで発せられた音は向かい合った壁面と半球状の天井によって反射を繰り返し共振する。この包まれるような空間像は宗教建築にとって有効に働く。

アーチ型のシルエットの輪郭が3次元になればシルエットの線は立体ループとなり、歌声の残響となってそこに集う者の周囲を駆け巡る。

グレゴリオ聖歌の旋律も上昇して下降するアーチ型の動きを持っている。その歌声の残響は、小さな継続する揺れが増徴し大きな振動に成長するように、建築の固有周波数に共振し大きな振幅に成長する。

このCDに収められた音楽には3つのアーチが宿っている。建築のそれと旋律のそれ、そして両者によって表れた残響のアーチである。残響のアーチの曲線は建築と旋律によって作り出される。

Soloist: Damien Poisblaud
Pavane Records
ADW 7239