Armenie Chants Liturgiques du Moyen-Age

omay_yad2005-11-18

キリスト教では三位一体という言葉を聞く。キリストと創造主と聖霊が神の本質であるという意味である。想像されるようにこの概念は様々に解釈されていった。キリストという実在の人物から神性を強めるべきか弱めるべきか、解釈によって教義は大きく変わり各地に存在する教会の統一が困難に陥る大問題となる。聖書の再編纂にも発展しかねない一大事である。新たな解釈が起こるたびにその都度、教会権威が集まり会議を開き正当か異端かを判定した。
エジプトやエチオピアに分布するコプト教会はキリストの神性を強め、正統派から袂を別けた一派である。アルメニア教会は東方正教会と一纏めに称されるが、遠い昔にはコプト教会とも繋がる教義を持っていた。時代を下ってトルコの支配から独立した後にコプトと絶縁し正教会の教義に近づいたものの、アルメニア正教とはならずにアルメニア教会として少々距離をとる存在となったそうである(若林忠宏アルメニアの宗教音楽」参考)。
このフランスはオコラ社のLPには4世紀の合唱曲が収録されている。かつてアルメニア王国キリスト教に改宗した頃の音楽である。ここには未だ異教の響きが残る、とライナーに記されているこの音楽は、東方正教会のものによく似ている。当時のどの宗教が如何に影響を与えているかは記されていないが、何らかの確証があるのだろうか、想像をたくましくさせる不思議な響きである。グレゴリオ・パニアグアが再演したパピルスや石碑に記された古代ギリシャ音楽にも似た部分がある。

原点を探ろうとして調べていくと、あるべきはずの物事の種のような、源泉のようなものは無く、新たな別の広がりに突き当たることになる。オリジナルという概念は幻想にすぎないのだ。あるとしたら追及してきた方向に別の方向へと向かう筋道が直角に交わって行き止まりに見える箇所のことだろう。

この4世紀の音楽は東方正教会の音楽、グルジアの古い合唱曲、いささか過剰なアレンジではあるもののパニアグアの古代の音楽、アラビア半島の古典音楽などから推測する以外、行き止まりの先を見る方法は無いようである。

OCORA
OCR66 HM 57
Radio France
Distribution Harmonia Mundi
(p) réédition Avil 1983,Paris