Atsuhiro Ito “Acousmatic”

omay_yad2005-11-21

伊東篤宏は蛍光灯を使用した楽器「オプトロン」の奏者である。
非楽器の物体が楽器にされたものはエスニック・パーカッションに多く見られる。
例えばメキシコ産のヴィブラスラップは死んだ馬の顎の骨を平手打ちして緩んだ歯が揺れる音を出す楽器である。南米には大きなさやえんどうのような実をマラカスのように使うもの、弓を改良して楽器に発展させたブラジルのビリンバウなどがその例だ。
しかし電気製品とりわけ照明器具という一見、音と関係の無いものを楽器にした例は過去に無いだろう。
彼はインバータ式の蛍光灯を利用しその電源周波数を自在に変動させ強烈なフリッカー明滅の際に生じる電磁波を拾って発音させている。

彼は元々美術畑の出身(日本画!)であり、蛍光灯を使用したサイト・スペシフィックなインスタレーションを制作している。蛍光灯から漏れる電磁波の響きそのものを作品化にする方向に興味が動いたことは想像に難くない。これは思いつきやある種のハプニングによって閃いたような単純なものではなく、遠く未来派の騒音楽器イントナルモーリにも言及している。実際彼が学んだ大学で一時再現されたイントナルモーリを復活させ、それを使用した演奏会と記録したCDを制作していることからもそのことが窺える。

この「Acousmatic」と題された CD-Rはそのオプトロンのソロ演奏である。1曲目は恐らくその生音であろう。シンセサイザーやデジタル音源では作りえない独特な電子音が堪能できる。この演奏は伊東自身が音の変化に新鮮に反応して作っている様子が聞き取れる。

もうひとつ彼の活動を触れておかねばなるまい。彼は代々木に2000年から約5年間存在したアートスペース件ライヴハウス、「オフサイト」の主宰だった(現在休止中)。この場所は民家の密集地のため大きな音が出せず、微弱音による音楽や沈黙の多い音楽の演奏が展開されていった。その動きは実験音響や即興演奏の世界に大きな影響を与えたのは周知の事実である。オフサイトに集った演奏家のすべてがその環境に影響を受けて静かな音楽に変化たわけではない筈だが、様々な作家が集うことができた重要な空間でありシーンのポイントのような場所だったということに関しては誰も異議を唱えないだろう。

現在オプトロンの音はイフェクター等の工夫によって相当な表現の幅を実現している。
数年後に別のオプトロン奏者が現れたとしたらこの楽器は百科辞典の一項目を飾るかもしれない。

(c) Atsuhiro Ito 2001
Euphoria phone-001.