植村昌弘 “続植村計画”

omay_yad2005-12-01

植村は非常にテクニカルなドラムを叩いてきた。彼のタイム感覚と正確でダイナミックななその技に共演者は驚き尊敬する。そのドラミングを録音した波形画像はまるで整形したかのように正確だという。変拍子を得意とし、4つの手足共に全く異なるリズムを同時に叩きだせるという。
日々訓練を欠かさず、可能性があり明解な構成のある音楽に共演を惜しまず、音楽制作と無関係な矛盾には一切加担しない。

この音盤は彼がライヴを行うときに自ら持参する自主制作CD-R作品の一枚である。それらはかなりのタイトル数があり、自らの実験成果を随時出版しているようだ。
この「続植村計画」はかつての自己のライヴ音源からサンプリングしたドラムの音を使ってPC上で作曲演奏を行ったものである。こう聞くと誰しもドラムの音を何らかの波形処理によって変調させているのだろうと思うかもしれない。しかしここではドラムは生音のままである。まるでドラム・ソロを聞いているような印象である。これは他に例が無いドラム独奏のコンピューター音楽なのだ。サンプリングされたドラムは単音ではなく、連打されたシーケンスなので反復するとそれらは重ね合わされて複雑なビートを生む。変化が変化を生みだすように曲が進行し独特なグルーヴが形成される。
この作品は自らのドラミングの確認作業でもあるだろう。また同時にドラムという楽器を用いた作曲作業である。
この作曲は形態こそ異なるもののバロック音楽に近い。ある範囲を定めその中で生じる変奏によって音楽を構築し、控えめながら印象的な要素を導入する、その美学に通じるものがある。変奏というと昨今の音楽の例で言えばRemixを思い浮かべるかもしれないが、それとは全く異なる。Remixはある楽曲をプラットホームとした不特定多数のアーティストの掲示板である。複数性によって特定の作者が希薄になる。要するに合作である。植村がCD-Rで発表している変奏はひとつのテーマによって導かれたパラメーターの可能性を追求する編纂作業である。変奏曲は、作者の発案によって作者自らがそこに寄り添い、作品自体が主体的に発動されることになる。ここで作者は常に演奏しながら「確認」の視点を保って作業することになる。植村のこのCD-Rリリースではそのような視点から音楽が提出されているように感じられる。

いくつも切り出されるCD-Rのリリース作品は地図のようなものであろう。そこには何通りかのルートが描かれているはずだ。個々のルートでは個々の物語が静かに淡々と語られる。手垢でべとべとした情念や勢い任せなものはない。
地図がルートを決定し、ルートが地図を完成させる。
それ以上何が必要なのだろうか。一点の曇りもない。

(CD-R)
録音:03年10月
無印レーベル
MU-020